ティール組織

ティール組織(7):助言プロセスとセルフマネジメント

※この記事は、森野御土日古のライブ配信やインタビューをもとに、ライターが文章を作成しています。

ティール組織には、助言プロセスという意思決定の流れがあります。

助言プロセスとは、どのような仕組みなのでしょうか。

これは、ティール組織が生み出す3つのブレイクスルーのなかの「セルフマネジメント」を支える、重要な要素のひとつでもあります。

一人ひとりがセルフマネジメントをして成長するためには、助言プロセスへの理解が欠かせません。

セルフマネジメントは【助言プロセス】に支えられて成立している

現在、組織運営の形は基本的に、上下の階層構造から離れるような流れがあるのかなと思っています。

今までのピラミッド型の組織では、内部で起きた問題は順々に上っていき、トップの経営層にすべての情報が集まり、そこで決定を下します。

下の階層の人たちも、上の決定に従えば良いので、全体の統制がとれた組織運営ができるというメリットがありました。

 

ところが、ティール組織においては、自分のマネジメントを自分でします。

ティール組織のセルフマネジメントは、今まで経営者やマネージメント層でしか行えなかった決定を一人ひとりが行える権利を持つのです。

そこで、ひとつの疑問が生まれます。

「どうやって組織をまとめているのか?」

一人ひとりが決定権を持てば、組織がまとまらず、バラバラになるのではないのか。

決定権を持つと責任も重くなったと感じて、誰も自分で決めたがらないのではないか。

どうやったら、セルフマネジメントしながら効率良くいろいろなことを判断できるのでしょう。

そこで重要なのが、今回解説する「助言プロセス」です。

よくある決定方法の弱点

世間でよくある決定方法には、以下の3つがあります。

  • トップダウン型
  • 合意形成型
  • 投票型(多数決)

どれも馴染みのある方法ですが、それぞれに問題を抱えています。

今までの決定方法には、どれも弱点があったんですね。

トップダウン型│決定方法の弱点(1)

決定方法の弱点、1つめは「トップダウン型」。

経営者などのトップが判断した決定に、みんなが従う方法です。

決定する人は強い発言力を持っていて、何でも従わせられるような感覚になっていきます。

それに対し、下にいる人たちは、さながら、奴隷のような感覚になっているかもしれません。

自分ではコントロールできないものに従って動いているので、重い身体を引きずってがんばっているような感覚に陥っていくのです。

合意形成型│決定方法の弱点(2)

次は「合意形成型」です。

これは「みんなで話し合ってコンセンサス(合意)を得ましょう」という方法。

この方法を皮肉る言葉が『[イラスト解説]ティール組織』の本にも書かれています。

会議をはじめてから16時間も経ちました。
もうそろそろ皆さん、議題に同意しましょう。いいですね?

フレデリック・ラルー著.「[イラスト解説]ティール組織――新しい働き方のスタイル」中埜博,遠藤政樹 訳,羽生田栄一 監訳,技術評論社,2018年11月26日

いろんな人の意見を平等に扱うがために、全員の合意が得られるまでひたすら話し合うことになる。

それにより時間がかかる場合も多く、決定までのプロセスで人々は消耗していきます。

これが合意形成型の弱点です。

投票型│決定方法の弱点(3)

3つ目は「投票型」です。

現在、選挙でも使われている方法ですね。

この方法の弱点は、決定の中身ではなく人の数で判断されてしまうこと。

例えば、優秀な専門家が1人いて「ちょっと待って、それはマズイ結果になる!」と言ったところで、最終的には投票の数で判断される。

もし、1万人の中に専門家が1人か2人しかいないとしたらどうでしょう。

大多数の素人が「こっちがいいかな」と感覚で思った案に決まってしまうことに、投票型の危うさがあります。

ティール組織が生み出した「助言プロセス」

従来の決定方法とは違う新しい意思決定の流れをティール組織は生み出しました。

それが「助言プロセス」です。

助言プロセスでは会社の資金運用に至るまで、誰もが決定権を持つことができます。

ただし、はじめに決定に関係する人たちから「助言」を求めなければなりません。

フレデリック・ラルー著.「[イラスト解説]ティール組織――新しい働き方のスタイル」中埜博,遠藤政樹 訳,羽生田栄一 監訳,技術評論社,2018年11月26日

その理由は2つ。

その問題についての専門家だからであり、決定により重大な影響を受けてその決定と共存しなければならない人だからです。

フレデリック・ラルー著.「[イラスト解説]ティール組織――新しい働き方のスタイル」中埜博,遠藤政樹 訳,羽生田栄一 監訳,技術評論社,2018年11月26日

ティール組織の助言プロセスでは、1人の人が考え抜くという役割をします。

それは問題から一番影響を受ける人、つまり考え抜く強いモチベーションがある人という可能性が高まります。

組織の全員が同じように時間をかけてその問題を考えているわけではありません。

決定権を持つ1人がいろいろな人から助言を受け、そしてその助言を慎重に考慮し、考え抜き、ベストな方針を選択する。

「これはちょっと違うな」と感じれば、ときに助言に反することもありえるわけです。

すべての人からコンセンサスを得るのは難しいし、助言の中には、気楽なものもあるかもしれないし、相手も真剣に考え抜いた助言もあるでしょう。

一側面しか見ていない専門家の助言もあるかもしれません。

いろいろな人の意見を取り入れた結果、中身のうすい妥協案になっても、組織全体のためにはなりません。

考え抜いた人が「これが一番だ」と思う最善の選択をする。

助言プロセスでは、専門家や、組織に関わるたくさんの同僚から意見を聞くわけですよね。
(場合によっては、その決定の中に外部の企業との折衝・交渉・情報収集も含まれるかもしれません)

何かを決めようという強い気持ちやニーズがある状態で、いろいろな人からたくさんの話しを聞かせてもらう。

助言プロセスでは、決定までの流れの中で、ものすごく人が成長する状況に置かれるのです。

一人ひとりが大きく成長する│ティール組織の「助言プロセス」

「経営者は人間的成長の速度が早い役割」と言われています。

それはなぜでしょうか。

経営者というのは、会社中から様々な情報を集めて、物事を判断しています。

自分が従業員を守らなきゃいけないという強いモチベーションを持って、会社に関わる重要な問題を考え抜き、決めていくわけです。

この過程で、経営者は成長していきます。

 

しかし、経営者1人に決定権が集中している組織には、デメリットもあります。

例えば、300人規模の組織だと、いくら優秀な経営者でも隅々まで組織のことを把握できません。

経営者が考え抜いた決定をみんなに指示しても、現場では「なんだよこんなこと言われてもやってられねーよ…」みたいな空気が蔓延することもあるのです。

その決定を下したのは、直接影響を受ける当事者ではないからです。

経営者に決定権が集中すると、組織のためをおもって考え抜いても、文句を言われる立場に立たされることがあるのです。

 

ティール組織では、今までトップの経営層やマネジメント層がしていた「決定」を一人ひとりが行います。

一人ひとりが考え抜く。
だから、たくさんの人に、「決定までのプロセス」という成長機会を提供できます。

多くの人が成長していける仕組みが、ティール組織の助言プロセスです。

その一人ひとりの力が集まって見事に機能し合い、組織がひとつの生命体として大きな成果を出そうとするのが、ティール組織なのです。

決めるのは考え抜く人です│ティール組織の「助言プロセス」

今回も『[イラスト解説]ティール組織』を参考にお伝えしていきますね。

ある工場でのお話しです。

「他の会社で働く友人の誰も、私が数十万ドルもかかる機械を買うのをまかせられるとは思っていません。」

「機械の仕様書ができあがると、その仕様が、将来の製品化にとって満足するものかどうか、私はピート(R&D部門で働くエンジニア)の意見を聞きました。」

「私は財務部のジャイラと一緒に、彼女に見積りの見直しを手伝ってもらい、財務的な観点からの助言を受けました。ジャネットには、交渉における多くの専門知識があります。私は、そこでも大いに勉強になりました。」

「そしてもちろん、いろいろな機会を見つけては、私は機械を操作する同僚の意見を聞きました。こうしたさまざまな観点の聴き取りによって、私は、正しい決定をしたと感じています。私たちは全員、新しい機械にとても興奮しています!
以前は、エンジニアと購入者が、どんな機械を買うべきかについて決めていました。機械が設置されてはじめて、私たちはこのことを知りました。私たちがそれを使うのに故意にグズグズしたのは当然でしょう。」

フレデリック・ラルー著.「[イラスト解説]ティール組織――新しい働き方のスタイル」中埜博,遠藤政樹 訳,羽生田栄一 監訳,技術評論社,2018年11月26日 より

影響する人たちに助言をもらうことで、決定までのプロセスに参加してもらうわけですね。

エンジニアのピートからは意見を聞き、専門知識をもつ仲間からは交渉や財務の勉強もしました。

みんなの意見をもらいながら、ちゃんと一人の人が考え抜くわけです。

例えば5人が一緒にミーティングで集まり5個の決定をするよりも、一人ひとりが「考え抜く」ということをそれぞれ5人が同じ時間だけ行ったほうが、より深く考え抜ける。

ミーティングは、毎回、認識の齟齬を修正したり情報を共有したりと、全員がその分野について詳しくなるまで議論を始められないので、決定までに時間がかかってしまいます。

だったら、誰か1人がいろいろな人から必要な情報や助言をもらって慎重に判断していく。

「その考えは使えそうだな」

「この意見のここは使えそうだな」

「あの人が言っていたことは実は勘違いかもしれない・・・」

「現場の人から情報を集めてみると、全く違う状況だった。どうも、思い違いを前提に話しているな。」

こんな風に、情報を整理しながら自分自身でちゃんと考え抜く。

決めるのは考え抜く人です。

誰かがアドバイスしたから、そのアドバイスの通りに決めるのではありません。

そうではなくて、1人の人がいろんな人に助言をもらいながら、自ら考え抜く。

そして、決めていくってことなんですね。

これが、助言プロセスで最も大切な要素です。

一般企業の決定プロセス│ティール組織の「助言プロセス」

「でも、そんなに考え抜いてたら時間がかかるんじゃない?」

こんな意見もあるかもしれません。

では、これまでの一般的な企業では、どのようなプロセスで決定にたどり着いていたのでしょう。

  1. CEOから人事部門の上部へ:提案依頼
  2. 人事部門の上部から部下へ:草案依頼
  3. 人事部門で草案作り、チェック
     
  4. 執行委員会で提案を議論
  5. 再度、人事部門で草案を練り直し
  6. 執行委員会で最終的に提案が認められるこの時点で、すでに2週間かかっています。
    そこからさらに、プロセスは進みます。
     
  7. ブラッシュアップのため社内での話し合い
  8. 人事部長から他の部長へのプレゼンミーティング
  9. 各部長から現場に知らされる

今までの決定プロセスでは、決定が下されるまで末端の人たちは全く関わっていません。

プロセスに関わった人事部長もその部下も、経営層の人たちに翻弄され右往左往していますよね。

そして、結果として、ふつうの結論が出る。

それを実行する現場の人たちは「へー」っていう気分ですよね。

このプロセスで最終的に決まった決定を聞いて「これはすごくいい決定だな」と思える人はどのぐらいいるのでしょうか。

ではティール組織だとどうなるか│ティール組織の「助言プロセス」

それに対してティール組織ではどうなるのか。

もうひとつ、ティール組織の例を紹介します。

ビュートゾルフという看護師さんが集まる組織では、経営者が自宅のソファから「こんな決定を全体でしようと思うんだ」ということを社内ブログに書き込むそうです。

ビュートゾルフは9,000人の会社です。

もし、影響を受ける全員に話しを聞いて回るとしたら、途方もない時間がかかってしまいます。

全社に関わる決定ですからね。

しかし、これを簡単に解決できる方法を見つけたのです。

それが、ブログに書き込むことでした。

コメントで「それはこういうところが気になる」という反対意見が出てくれば、「うーん。ちょっと早まったかもしれない。ちょっと1回この結論は取り下げて、こういう風にしてみたらどうだろう」とまた新しくブログに投稿をします。

「いいと思うよ」とか「それは微妙かもしれない」など、いろいな意見を全社員からブログを通してもらう。

この方法で、ビュートゾルフでは人事に関わる重要な決定を24時間以内に下すことができているそうです。

これは、ありえない速度だと思います。

普通は、人事に関わる決定だと組織全体に影響するので、さまざまな会議を経たり経営者の承認を得たりしないといけません。

そして当たり前のように、影響を一番受ける現場の人たちは何にも関わっていないことが普通です。

ところがティール組織では、現場の人たちの声をちゃんと聞きいて考え抜くことができて、しかも今までより速く決定が下せています。

助言プロセスでは、決定に影響を受ける人たちから助言をもらうので、助言する人たちも真剣です。

そして決定する本人も、決定権が自分にあるのだと思うので真剣に検討を重ねます。

いろいろな人の話しを聞きながら「ここが問題だな」「いやこっちが問題かも」「でもここはこうしたらいけるな」といろいろな人と相談しながら考え抜いて、何かにたどり着く。

そうして生まれた結論は「あ、なるほど」と多くの人が思うかもしれませんよね。

そして本人も「私ちゃんと考え抜いたな」ときっと思っているはずです。

その人が実行するとなったら、それは本気で取り組みそうですよね。

結接点という考え方│ティール組織の「助言プロセス」

「でも、いくら助言を受けると言っても一人ひとりが決定すれば、組織全体がバラバラになっちゃうんじゃない?」

そんな疑問がまだ残っているかもしれません。

それについては、私が「結接点」と呼んでいる考え方があります。

 

例えばまず、組織の中で何かを決めたい人が2人いるとします。

この二つの決定したい事柄は、互いに影響を与え合うとします。

たとえば、その企業では、年一回しか拠出できないほど大きな予算を使うのであれば、その二つの決定は、どちらかを選べば、もう一方は実行できません。

もしくは、両方の決定が、ひとつしかない機械を使うプロジェクトなら、その機械を使うタイミングを話し合う必要があります。

このように、組織の中では、相互に影響を与え合う決定がたくさんあります。

 

2人は、決定したい事柄を持って、それぞれの影響の範囲にいる人たちに順番に相談をして助言を求めるわけですね。

そうすると、この決定同士が相互にぶつかるというか、相互に影響を与え合う場所に「誰かがいる」はずなんです。

この「誰かが」が結接点です。

両方のプロジェクトに関わっている誰かのことです。

この、相互に関係する「誰か」のところにまで「こんな決定をしようと思うんだけど、どう思う?」という両者の決定についての話しが届くわけです。

この「結接点」と呼ぶ場所で、調節が起こるはずなんですね。

例えば、1人は原材料の購入を検討していて、もう1人は機械を購入しようとしています。

それぞれが、財務の人や交渉の人、同僚、別のチームの機械を使う人たちと相談し話を聞いていく過程で、結接点にいる人が気づくわけですね。

「あれ。あの人がこの前あたらしく買うと言っていた機械でも使える材料のほうが、良くない?」

原材料と機械、両者のニーズが影響を与え合う結接点にいる人がアドバイスをする。

このように助言プロセスは進んでいきます。

そして、必要な調節が終わるわけです。

 

影響の範囲の中でお互いの影響がぶつかる場合には、どこかに結接点が発生する。
結節点で調節ができる。

 

なので、ティール組織では決定間の調節も自然とできるのです。

普通の企業だと、この結接点には上司しかいません。

より大きな決断ほど、より多くの結節点が関わるので、最大の結接点である社長しか決められない状況になっていきます。
(現場から最も離れている人にもかかわらず)

 

トップだけが結節点になって組織がまとめているのではなく、いろいろな場所が結接点になる

結節点が多ければ多いほど組織が成長していく。

これがティール組織なのです。

圧倒的な決定を生み出し成長していく│ティール組織の「助言プロセス」

ティール組織の助言プロセスでは、大きな決定であればあるほど影響を受ける人は多くなります。

さまざまな人からたくさんの助言をもらえるようになります。

助言をもらうたびに、さまざまな視点に立ち、その助言の意図を理解し、成長していきます。

また、小さな決定であればあるほど関わる人が少数になるので、素早く決定が下せます。

ティール組織では、自分にできそうな小さな決定をしても良いし、より大きな決定でいろいろな人から助言をもらって、急速に成長しても良い。

どちらの道を歩むか、自分で決めることができるわけですね。

助言をもらう相手には優秀な人たちもいるので、その人たちのアドバイスをもとに学び、決定までのプロセスで成長することができます。

このような助言プロセスによって、大きな生命体を構築している一人ひとりが考え抜いて判断していく。

もし100人の組織で一人ひとりが判断すれば、もちろん失敗もあるでしょう。

しかし、そのプロセスで一人ひとりは成長していきます。

成長した100名ができる範囲で決定を下すことと、たった一人が、状況もわからないのに、たくさんの決断の経験をすること。

どちらの方が、最終的に、良い決断がたくさん生まれるかは、一目瞭然ですね。

 

たった数名がすべての決定を担うよりも、ティール組織では圧倒的によい決定をたくさん生み出しています

そしてたくさんのよい決定が生まれているから、その中のいくつかの決断が失敗に終わっても全体で十分な利益が出せれば、補填することができるのです。

もし失敗しても「何が足りなかったんだろう」「こうすれば良かったかな」と考えたことを振り返りながら、成長して、次に活かしていく自然で強いモチベーションが生まれます。

なぜなら、他人に押し付けられた決断ではなくて、自らの意志で決めたことだからです。

助言プロセスは【一人ひとりが成長できる】組織の新しい決定プロセス

ティール組織の助言プロセスは、一人ひとりが成長していける決定プロセスです。

セルフマネジメントは、この助言プロセスによって支えられています。

一般企業の長い決定プロセスよりも、助言プロセスは遥かに決定にかかる時間が短いと言われています。

一人ひとりが決定権を持つ助言プロセスは、考え抜く過程で創造性が刺激され、生命体の一部として組織を動かしている実感を持てるので、決定する人にとっても単純に楽しいものになります。

そして、結接点が生まれることで、調整が働き、上手く組織がまとまっていける。

ティール組織は、助言プロセスによって圧倒的によい決定をたくさん生み出しているんですね。

次は「ホールネス(全体性)」についての解説です。

じっくりとティール組織について深めていきましょう。

参考書籍
・フレデリック・ラルー著.「[イラスト解説]ティール組織――新しい働き方のスタイル」中埜博,遠藤政樹 訳,羽生田栄一 監訳,技術評論社,2018年11月26日
・フレデリック・ラルー著.「ティール組織 マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」鈴木立哉 訳,嘉村賢州 解説,英治出版,2018年1月