心×メジャー

NVCの本質と4つのステップ/前編

今よりもっと、より豊かな人間関係を築きたいと思うとき
今よりもっと、自分らしく生きたいと願うとき

たとえば

「会社で、上司や部下ともっとスムーズな関係を築きたい」

「家族やパートナーとの関係をよくしたい」

こんなとき、あなたはどんな風に対処しているでしょうか。

・アンガーマネジメント
・ストレス・コーピング
・アサーション
・メンタルモデル
・ロジカルシンキング
・NLP       …等々

世の中では、色んなひとが様々なアプローチで人間関係をより良いものにしたいと試みている。

それだけ人との関わりは、人生に大きく影響を与えるものであるとも言えるでしょう。

 

たくさんのコミュニケーションノウハウがある中で

この記事では、『もりのラボ』が組織や人間関係のコミュニケーションツールの一つとしてとても有効であると考えている、NVC について解説します。

NVCは、人間関係をもっとより良くしたいという願いに対して

・ストレスのもとになるものにアプローチすることでも
・意図的に自分や相手のモチベーションを上げるという方法でも
・自分の怒りをおさえるという方法でもない

今までの枠の中から一歩でたところで、人間の本来のあり方に視点を与えてくれるコミュニケーション方法です。

NVCとは?

NVC(Nonviolent Communication=非暴力コミュニケーション)は、1970年代に、アメリカの臨床心理学者マーシャル・B・ローゼンバーグ博士によって体系化され、提唱されたコミュニケーション方法(プロセス)です。

ローゼンバーグ博士が抱いた疑問はシンプルでした。

  • 世の中には、他者に貢献することを喜びとしている人がいる
  • その一方で、暴力を好んで使う人がいる

この両者の違いがどこから生まれるのか。

どうやったら前者になれるのか。

そして、人間とはいったいどんな存在なのか。

このような疑問を解明しようとする中で生まれたのがNVCです。

 

ローゼンバーグ博士が注目したのは、わたしたちが日々使う言葉が、自分自身や相手、世界の捉え方に影響を与えているということ。

そのなかで、現代社会でよく使われている

「何かが正しくて、何かが間違っている」

という二元論的な言葉が、暴力的な考え方に繋がっている、ということでした。

 

たとえば、あることを「正しい」と定義すると、そうでないものは「間違い」になる。

そのなかで「正しい」ことを行なわない人がいたら
「こうあるべき」「それは間違っている」
と攻撃するコミュニケーションを選択することができます。

これによって、相手に罪悪感や恥の気持ちを生じさせてコントロールする。

また、自分の要求を通すために被害者として「正義」を構築する。

「正しい・間違っている」という言葉には、背景に相手をコントロールしようとする構造が存在しています。

そして、それが攻撃を正当化してしまう、暴力的な考え方に繋がっていくのです。

(善の構造については、別の記事でくわしく解説します。)

この「正しい、間違っている」の捉え方を抜けて、”人が心の内面に息づくものを大事にして人と繋がる”というコミュニケーションを選択するのがNVCです。

ローゼンバーグ博士は、他者に貢献することを喜びとしている人を観察し研究していくなかで

・現代社会で蔑ろにされている、ひとの心の内面に目をむけること
・人が本来もっている「思いやり」から行動すること
・そして、そこから人との繋がりの質を構築していくことが

この世界をより良くしていくために必要だと確信をもっていたのだろう、と『もりのラボ』では考えています。

NVCのコミュニケーションは

『観察』『感情』『ニーズ』『要求(リクエスト)』

という4つのプロセスで行なっていくのですが

(具体的なステップは、次の記事NVCの骨格4つのステップで解説します)

実は単なるプロセスだけでもない、言葉のやり取りだけにもとどまらない
内面に息づくものに繋がるために、絶えずわたしたちの心に働きかけてくれるツールでもあるのです。

(そして、これこそが他のノウハウとの大きな違いであると考えています。)

心から湧き出てくるものと繋がることができるコミュニケーションは、今より確実に人との関わりを豊かなものにしていってくれるはずです。

NVCの本質

では、内面に息づくものを大事にしながら人と繋がるとはどういうことでしょうか。

それは、一人の人として

  • 自分の必要としていること(自分のニーズ)を大切にする
  • 相手の必要としていること(相手のニーズ)も大切にする

これを双方に行うことで成立させられるコミュニケーションの在り方です。

(お互いのニーズを満たすことについては「感情成熟の三段階」の記事で解説しています)

一人の人として、自分と相手のニーズを満たしながら繋がりを育んでいく。

これを繰り返しながら、豊かな繋がりの質をもった人間関係を構築していきます。

その先で『もりのラボ』で伝えている「自分の道」を歩んでいくことができると考えています。

(「自分の道」についてはこちらの記事で解説しています。)

【天井があるように見える今の社会】

とはいえ、今の社会では、自分や相手のニーズを大切することが難しいと感じる場面に出会うこともたくさんあるでしょう。

実際、自分の必要性を伝えようとするとき、正しさを構築して相手にぶつけるということが今の社会ではよく行なわれます。

少しイメージしやすいように、一つの例を挙げてみましょう。

ある職場で、従来のやり方に従って進めたい「華子さん」
反対に、どんどん改革をしていきたい「若葉さん」の2人がいます。

2人の間で仕事のやり方について意見の違いが出てきたとき、華子さんは若葉さんにこう伝えました。

「従来のやり方が正しいと思います」
「従来のやり方ですべきです」

ここで注目してほしいのが、華子が発している言葉。

華子さんは自らのニーズ(必要とすること)を言葉に表してはいません。

(もちろん、若葉さんのニーズも聞いていません)

華子さんは

  • 過去に色んな失敗をみてきたら、この方法が良いと思っているのかもしれない
  • 新しい方法でリスクをとるのがこわかったのかもしれない
  • 上司からの何らかの圧を感じているのかもしれない

けれど、華子さんの感情やニーズがどうであれ、華子さんが若葉さんに伝えたのはただ「これが正しい、こうすべきだ」ということだけでした。

この場合、若葉さんが心から望んで従来のやり方を選択することは難しそうですよね。

なぜなら、そのような言葉は、若葉さんから自己防衛や反撃を引き出しやすくなるためです。

一般的な社会でも、このようなケースはたくさんあるのではないでしょうか。

じつは、ここには現代社会の中で、わたしたちが報酬・罰・正義・恥等という観点から考えるよう教育されてきたという背景も絡んでいます。

多くのひとがこのような捉え方によるコミュニケーション方法を習得してきた結果、恐れや不安、怒りから人と関わることを選択してしまう。

今回の場合では、華子さんは「従来のやり方ですべきだ」という正義のもとに、怒りや不安から、若葉さんに関わるという選択をしています。

そして、自分が必要としていることを率直に表現できないまま、人との関わりが構築されていくのです。

このなかで構築された人間関係には、繋がりの質があまりないように感じられますね。

(そもそもお互いのニーズが全く共有されていないので、すぐに壊れてしまいそうです。)

このような人間関係でがんじがらめになっている社会では、怒りや恐れから、さらに正しさを構築して相手にぶつけるという悪循環が生まれます。

そうしないと、自分を守ることができない構造になっているのです。

『もりのラボ』からは、今の社会は、その先にはいけない天井がある世界の中で、同じところでぐるぐると回っているように見えています。

天井の下で、ほんの少し良くなることはあっても、それ以上はいけない状態でもがいている。

もし心のジャンルで「社会を良くしていきたい!」と、どんなに崇高な志をもっていたとしても、このような構造のなかでは、できることに限界がきてしまいますね。

【天井に穴があいて、青空(希望)がみえる】

この天井のある世界に、”希望”という穴をあけるための一つの要素がNVCであると『もりのラボ』では考えています。

 

自分が必要としていることを率直に表現できない社会のなかで

「どうせ…わかってもらえない」
「頑張ったってしょうがない」

多くのひとが感じている、そんな絶望にも似た感覚。

天井があって、悪循環のサイクルから抜け出すことなんてできないと考えていれば、そのような気持ちを抱くことは自然なことです。

だけど

もし自分のニーズも相手のニーズも表現できて、お互いに理解できるのだとしたら‥

もし自立したもの同士で、それを大切にできるコミュニケーションができるのだとしたら‥

そんなことができる方法があるのだと知って、その可能性を感じることができてはじめて
人は『頑張ったってしょうがない』というところから、『状況は変えられる』という感覚を持つことができるのです。

先ほどの、華子さんが「こうするべき」という言葉の代わりに

「以前、違ったやり方をしたとき予想外のミスが発生したから、従来のやり方の方が一番ミスが少ないと考えているのだけど…どうだろう?」

「従来のやり方の方がコストが一番少ないと思っているのだけど、新しい方法だとどれくらいコストがかかるのか教えてもらえるかな?一緒に検討できたらありがたいです」

こんな風に若葉さんと繋がろうとすることができたら、華子さんと若葉さんの関係はどんな風に変わるでしょうか。

もちろん、このやり取りをしたからといって、若葉さんから良い反応が返ってくるとは限りません。

けれど、正しさを構築して「こうすべき」と伝えるよりははるかに、若葉さんから好意的な反応を引き出す確率は上がるし、2人の間での繋がりの質は変わると思うのです。

 

では、人との関わりの中で繋がりの質を育んでいくためには、どうすればいいのでしょうか。

続きは、NVCの本質と4つのステップ/後編で解説しています。

※この記事は、森野御土日古のライブ配信やインタビューをもとに、ライターが文章を作成しています。

参考書籍

「NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法」新版
マーシャル・B・ローゼンバーグ (著), 安納 献 (監修), 小川 敏子 (翻訳),2018年02月20日発行:日本経済新聞出版

「わかりあえない」を超える―目の前のつながりから、共に未来をつくるコミュニケーション・NVC
マーシャル・B・ローゼンバーグ (著), 今井麻希子 (翻訳), 鈴木重子 (翻訳), 安納献 (翻訳),2021年12月8日発行:海士の風

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<【NVC ノンバイオレントコミュニケーション 1】NVCの本質>