この記事では、NVCの中の<感情成熟の三段階>について解説していきます。
(NVCの本質と4つのステップについては、こちらの記事でくわしく解説しています)
※NVC(Nonviolent Communication=非暴力コミュニケーション)とは、1970年代に、アメリカの臨床心理学者マーシャル・B・ローゼンバーグ博士によって体系化され、提唱された、コミュニケーション方法(プロセス)です。現在、世界中で実践されているコミュニケーション技術の一つです。
自分らしく、豊かな人生を歩もうとするとき、その過程では人との接点が必ず生まれます。
その接点で、どのような人間関係を育むことができるか。
表面的な薄っぺらいものではなく、どれだけ成熟した関係を築けるか。
それが自分らしい人生を歩むための、重要な要素のひとつになっています。
もちろん、コミュニケーションノウハウも大切です。
だけど、じつは一人ひとりの感情成熟の度合いによっても、育める人間関係の質は変わってきます。
それぞれが感情的に成熟した段階でコミュニケーションをするとき、より豊かな成熟した人間関係を育むことができるのです。
NVC:心の内面で息づくものを大切にする
「感情成熟の三段階」の話に入る前に、前提としてNVCのコミュニケーションでとても大事にされているものをお伝えします。
それは、そのひとの心の「内面で何が息づいているのか」に意識を向けること。
「内面で息づいているもの」を感じて、そのうえで感じたことの扱い方や表現の仕方を育んでいくことが、人との豊かな関係をつくっていくためにとても大切な作業です。
成熟した人間関係の土台にあるのは、その人がちゃんと自分の内面と繋がっていること、そして、相手にもそれがあると理解していることなのです。
『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』のなかに、ある女性の例が載っています。
その女性の本当にニーズは「忙しい日々の中で少しだけ自分の時間がほしい」ということ。
けれど、女性がパートナーに言った言葉は
「今日は一日中時間がなかった。シャツ全部にアイロンをかけて、一週間分の洗濯をして、イヌを獣医に連れて行って‥(中略)‥だからあなたもすこしは‥」
その女性の言葉の背後にあるのは、自分が必要としていることは重要ではない、という考え(思い込み)があります。
そして、その考え(思い込み)を反映したやり方を選択してしまうのです。
しかし、このやり方では、相手が彼女の懇願の奥にある本当のニーズに気づくことは難しいですよね。
だからこそ、どのように自分の内面で息づくものを扱うか、表現するかが重要になってくるのです。
まずは「内面に息づくもの」に意識を向けることからスタートし、そこから人は、成熟した感情の扱い方や表現の仕方を身に着けていくことになります。
NVCでは、この過程を「自分の考え方や感情に対しての責任感を育てていく」と表現されています。
感情成熟の三段階
では、自分の感情に対して責任感を持つとは、どういうことなのでしょうか。
マーシャルローゼンバーグ博士は、ひとが自分の感情に対する責任感を育てていく過程では、たいてい以下の三段階を経験すると述べています。
これが『もりのラボ』で「感情成熟の三段階」と伝えているものです。

【第一段階】感情面の奴隷の状態
この段階は、自分以外の感情を優先して、みんなの幸福のために自分がせっせと努力するような段階です。
たとえば、子供のため家族のためにせっせと家事をする母親がいたとします。
この母親は、本当は自分のやりたい仕事があるのに、家族が心地良く過ごすために、自分が我慢して努力しているのだとしたら…
先ほどの女性と同じような、表現方法を選択をしてしまう可能性が高いです。
みんなの幸せのために、自分が犠牲になればいいと思っていて、ひとが幸せじゃないと自分に責任があると信じ込んでしまう。
そして、周りの人の感情を自分が背負うような体験になっているのです。

じつは、多くの企業や学校でこの在り方を教えられているので、日本人の多くはこの段階か、次の反抗期の段階にいます。
この段階にいると、親密になればなるほど、責任を持つことが増え、より大きな自己犠牲を払うことになるため、人間関係が親密になればなるほど、どんどん窮屈になってしまいます。
「人と親しくなるのが怖くてたまらない」と感じることも出てくるでしょう。
そして、人間関係が破壊されていきます。
また、感情のかけひきは、この段階にいる人たちの間でおきるのです。
(この段階をどう抜けていくのかは、参考文献やNVCのホームページなどを見てみてくださいね)
【第二段階】反抗期
第二段階は、自分を犠牲にして、人の感情に責任を負うことで関係性を作っていくことは、とても大きな代償があると気づいていく段階です。
いわゆる「反抗期」の段階です。
第一段階で自分がひたすら自己犠牲をして苦しくなっているのに、相手も幸せにならず満足せず増長していく。
相手がどんどん大きくなって、自分がどんどん小さくなって苦しくなる。
自分の心の声や想いも全然大切にしていなかったことに気づいて、相手もそんな風にさせていることにも気づくのです。
そして、怒りが高まってくることもあるでしょう。
ここで第一段階の「感情面の奴隷」ときっぱり決別します。
たとえ苦しんでいる人を目の前にしても「それはあなたの問題だ!」と突き放す。
感情面の奴隷を卒業して、他人から不快感を向けられるというリスクをとるようになるのです。
一方で、相手が優しさを向けてくれていても、その優しさを受け取れなくなり、孤立していきます。
人はひとりでは生きていきません。
特に自分の個性を活かした「自分の道」を歩むためには、親密で健康なひととの協力関係がとても大切です。
反抗期の段階では、ひとと協力関係を築くことができないので、「自分の道」や満たされた旅を歩んでいくような生き方ができなくなってしまうのです。
(「自分の道」については、こちらの記事でくわしく解説しています)
『NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法』にワークショップに参加した女性の例が載っています。
ワークショップの休憩中、女性はローゼンバーグ博士に「今まで自分は感情面の奴隷の状態であったと気づくことができた」と感謝を伝えてくれたそうです。
休憩後、ワークショップが再開されて、ローゼンバーグ博士が参加者にある活動を提案した。
すると、その女性は「他のことがやりたいです」と言い切りました。
「感情面の奴隷」から「反抗期」の段階に移行し、彼女は自分の感情を表現しているのでした。
そこで、ローゼンバーグ博士は、彼女にこう尋ねました。
「わたしが必要としていることと違っても、他のことをしたいのですか?」
彼女は考えて口ごもりながら「ええ‥‥その‥‥つまり、いいえ。」と答えたそうです。
この反抗期の段階では二元論的なものの捉え方をしています。
自己犠牲(人の感情を大切にする) ⇔ 自分の感情を大切にする(受け取らない)

この二つの両極の間でゆれ動いて混乱しているのです。
ワークショップに参加した女性もまさに混乱して揺れ動いていたのでしょう。
二元論から抜けるためには
Step1:両方のいいところを全てとれる方法はないか
・自分の意思を大切にできること(反抗期の段階)
・人と上手くやっていくこと(感情面の奴隷の段階)
Step2:両方のデメリットをなくす方法はないか
・孤立してしまうというデメリット(反抗期の段階)
・自分をないがしろにしてしまうデメリット(感情面の奴隷の段階)
このすべてを満たす方法を考えながら模索していくことになります。
そうして、自分の感情やニーズだけを表現するだけでは、自分の必要なことは満たされないことに気づいて、第三段階に移行していくのです。
【第三段階】感情面の解放:お互いの感情や必要性を大事にする
第三段階は、人が必要としていることに対して、思いやりをもって反応することができる段階です。
相手にも必要なことがあって、自分にも必要なことがある。
お互いに必要とすることを率直にシェアして、お互いが良くなっていく道を見つけられる方が良いと考えるようになります。
それぞれの考え方や感情の責任は、それぞれにあることを認識し、お互いのニーズを満たしながら満足感を得られる。
お互いが個人でいたまま繋がることができるようになります。
人はこの段階にいってようやく、人を犠牲にして自分が必要とすることを本当に満たすことができない、という重要な気づきを自覚することになります。
なぜなら、誰かを犠牲にしていたら、自分のどこかが小さく傷ついてしまうから。
苦しんでいる人が目の前にいると、たとえ自分のニーズが満たされていたとしても、恐れや不安が出てくることは人として自然なことです。
だからこそ、お互いのニーズを満たすためにはどうすれば良いかを真剣に考え、こうすればお互いを大切にできるんだ!ということを掴んでいくのです。
お互いのニーズを満たすためには、自分が必要なことを明確に述べることが必要で、相手の必要なこともちゃんと理解したいと思う。
もしその過程でサポートが必要ならお互いが手を差し伸べる。

そんな心地良い空間が広がっていくのです。
この感情面での解放の段階にくると、『もりのラボ』の別の記事で解説している、善の構造の中での善のぶつけ合いがなくなっていくことになります。
(善の構造については、別の記事で解説します)
そして、素晴らしい人間関係を作れるようになっていきます。
この段階にいたって、ひとは真に「自分の道」を歩むことができるようになるのです。
まとめ
今回は、成熟した人間関係を育むための感情成熟の三段階をお伝えしてきました。
恐れや不安、罪悪感からコミュニケーションをとるのではなく、思いやりの気持ちから人と繋がれるようになると、人間関係はどんどん豊かになって成熟していきます。
『もりのラボ』では、このレベルで相手と繋がり、人間関係を育んでいくことを目指しています。
そして、自分らしいそのひとだけの道を歩んでいける人が増えてほしい。
マーシャル・B・ローゼンバーグ博士がそうだったように、多くの人が争いではなく、思いやりから繋がりたいと願っている。
そうであるなら、個々人が、より平和的にひとと繋がれるコミュニケーション方法を、組織で、家庭で、コミュニティで、自ら実践し体現していくことが、世界がよりよくなる一歩に繋がるのではないでしょうか。
『もりのラボ』は、心ジャンルから、社会や人との心地よい成熟した繋がりを育んでいきたいと考えています。
※この記事は、森野御土日古のライブ配信やインタビューをもとに、ライターが文章を作成しています。
参考書籍
「NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法」新版
マーシャル・B・ローゼンバーグ (著), 安納 献 (監修), 小川 敏子 (翻訳),2018年02月20日発行:日本経済新聞出版
「わかりあえない」を超える―目の前のつながりから、共に未来をつくるコミュニケーション・NVC
マーシャル・B・ローゼンバーグ (著), 今井麻希子 (翻訳), 鈴木重子 (翻訳), 安納献 (翻訳),2021年12月8日発行:海士の風
関連動画
この記事の内容をもっと深めたい方は、こちらの動画もご覧ください♪
<感情成熟の3段階(人間関係の成熟)>