※この記事は、NVCの本質と4つのステップ/前編の続きの内容になっています。
人との関わりの中で、繋がりの質を育むための具体的ステップをこの記事でお伝えしていきます。
【天井に穴があいたその先に】
自分の必要としていることを率直に表現できない、天井があるように感じる社会のなかで
- 自分のニーズも相手のニーズも表現できて、お互いに理解できる
- 自立したもの同士で、それを大切にできるコミュニケーションがある
そんなこと言われても、自分のニーズを正直に表現したら
「それはわがままだ!」「きみは弱いやつだ。」
と周りから思われてしまうだろう。
こんな風な気持ちが湧いてくるひともいるかもしれません。
そして、そう思うのも無理もないことだと思います。
社会の中で、教育の中で、わたしたちは
・正しくないものは罰されるべきだ
・他人は、自分を傷つける可能性がある
・まわりから自分を守らないといけない
このような捉え方を自然と身に着けてきました。
だから、自分の内側のニーズをさらけ出すと
・弱みにつけこまれるのではないか
・批判されるのではないか
・自分を守らないと!、こんな気持ちが出てくるのです。
しかし、NVCでは、人間には本質的に思いやる気持ちがあると信頼したうえでコミュニケーションをおこないます。
そして、それは絵空事ではなく、ローゼンバーグ博士自身が世界各国をまわる中で、確信してきたことでした。
人間には本質的に思いやる気持ちが存在する例として、NVCで挙げられている2つの事例を紹介します。
一つ目は、アヒルに餌をあげる少年
これは、だれもが一度は似たような光景を目にしたことがあるかもしれません。
(もしくは、その少年自身だったこともあるひともいるかもしれませんね。)
このアヒルに餌をあげる少年は、ただアヒルに喜んでもらいたい、その一心で餌をあげるという行動をしています。
そして、少年もアヒルも両方とも幸せです。
そこには、ただただ思いやる気持ちが存在しているだけ。
そして、このような思いやりの気持ちは人間に本質的に備わっているものだとNVCでは考えているのです。
二つ目は、「わかりあえない」を超える―目の前のつながりから、共に未来をつくるコミュニケーション・NVCの書籍で紹介されている
ローゼンバーグ博士が世界各地のあらゆる場所で問いかけてきた質問です。
『過去24時間を振り返って、あなたのとった何らかの行為が、誰かの人生をより素晴らしいものにする上で役に立った、ということはありませんか?』
ローゼンバーグ博士は、この質問をしたとき
国や宗教や文化や人種にかかわらず、いままさに紛争が起こっている地域でも、ほとんどの人が手を上げ、人々が笑顔になる光景をみてきたそうです。
ひとは自分以外の誰かの喜びを、自分の喜びとして感じることができるのだと確信した瞬間だったのでしょう。
この二つのエピソードは、ひとは誰かの役に立つことができるということと、そして、多くの人にとってそれは喜びに繋がることを意味していると考えています。
相手を思いやる気持ちがあることを分かっていれば、自分のニーズを伝えるのに正義を振りかざしたり「大変で被害者」である必要はなくなります。
人の本来持っている思いやりの要素が、他のNVCのコミュニケーション要素とも組み合わさって天井に希望の穴が開く。
・まさか天井のその上に青空があるなんて思っていなかった!
・わたしたちは状況を変えることができるし、変化させることができる。
・幸せになることができる!
天井のすきまから青空の一筋の光がたしかにみえたとき、人は前に進むことを選択することができるのではないでしょうか。

【人との関わりのなかで満たしあう】
天井のある社会から
「わたしは幸せになることができる」
「状況をかえていける!」
という青空の世界へ向かうときに、ひとは必ず人との協力が必要になります。
なぜなら、今の社会の状況や、自分の状況について
・こんな問題がある
・こんな風にしたい
・こんなところが苦しい、など
多くの人が望んでいることや解決したいことは、一人では成しえないことだったり、人との関わりの上で成り立つことが往々にしてあるからです。
お互いにシェアしあうことによって、効率よくお互いのニーズを満たしあうことができる。
これが今の社会でとても重要なことだと『もりのラボ』では考えています
(お互いのニーズを満たすことについては「感情成熟の三段階」の記事で解説しています)
一方で、現代社会では自立することが重要とされています。
自分のことは自分でできることが常識という考え方、確かにこれは発達段階の一過程では必要な要素です。
そこから「人に頼ってはいけないんじゃないか?」そんな気持ちが出てくる人もいるかもしれません。
でも自立とは、孤立を意味しているわけではありません。
人との繋がりのなかで、自分のニーズも相手のニーズも満たしていく。
孤立してしまうと、自分のニーズを満たす確率はすごく下がってしまいます。
ちゃんと自立したうえで、お互いのニーズを満たしあうこと、それが青空の世界に向かうためには重要なのです。
そして、それを実現できるコミュニケーションの形がNVCです。
NVCの骨格4つのステップ
では、NVCのコミュニケーション方法とはどんなものなのでしょうか。
ここからはNVCでの具体的なステップを見ていきましょう。
NVCでは、以下の4つのステップを順番におこなっていきます。

1.観察
一つ目のステップは『観察』です。
観察とは、事実を表現すること。
よく観察といっしょに使われやすいのが、解釈や評価です。
たとえば、「きみは怠け者だ」と表現するとき、この言葉には評価と解釈がふくまれています。
よくよく見てみると、世の中では、この解釈と評価がとても多用されていることに気づくと思います。
このとき「怠け者だ」と伝えられた相手は、どんな風にこの言葉を受け取るでしょうか。
おそらく相手は、批判されたと受け止める可能性が高いです。
そして、評価や解釈が『批判』と受け取られると、相手は防御的となる。
評価と解釈をいっしょに伝えることで、防御的な気持ちを抱かせている、ということなのです。
NVCでの『観察』のステップは、自分の考えや評価、解釈を交えずに、カメラに映るような事実を観察して伝えること。

こうすることで相手と事実を共有でき理解しあうことができると考えています。
もちろん、これは評価や解釈をいっしょに伝えてはいけないということではなく
NVCでは、選択肢として事実を伝えることからスタートする、ということなのです。
観察と評価や解釈がごっちゃに使われていることが多い、という視点を持つだけでも、そこから自分は何を選択するか、選ぶことができる選択肢は増えますよね。
では、先ほどの「怠け者だ」の言葉を『観察』として伝えるとしたら、どのように伝えたらいいでしょうか。
・昨日自宅に帰ってきたら、家事をせずスマホで動画をみて1時間を過ごした
・今日、上司から課されたタスク以外行なっていない
このようにカメラに写るような事実を観察として言葉にすることで、批判ではなく共有ができる。
そして、自分の考えと事実と切り離すことができれば、事実からスタートして相手との繋がりのキッカケをつくることができるのです。
2・3.感情とニーズ
二つ目・三つ目のステップは『感情』と『ニーズ』です。
自分が何を感じているのか、自分の感情をちゃんと捉えること。
感情は、多くの場合、自分のニーズを知るための手掛かりとなります。
ニーズが満たされているとポジティブな感情が生まれ、満たされていないとネガティブな感情が生まれる。
たとえば、人との会話の途中で”怒り”の感情がでてきたとします。
その背後には、満たされていないニーズが存在しています。
それは「じっくり話をきいてほしかった」というニーズかもしれないし、「ゆとりをもって会話をしたかった」ということかもしれない。
人によって、必要としていることは違うでしょう。
だからこそ、自分は本当は何をしてほしかったのか。
相手は何をしてほしいと望んでいるのか。
感情をちゃんと感じ捉えることで、本当のニーズに繋がることができるのです。
4.リクエスト
4つ目のステップは『リクエスト』です。
本当は何をしてほしかったのか、自分のニーズに繋がっていくことで、相手にこうしてほしいとリクエストすることができます。
「自分はこのように感じていて、このようなことを必要としている
だから、こうしたい・このようにしてほしいと思っている」
リクエストをしてようやく、相手はあなたの本当にしてほしいことを認識することができるのです。
ここで、リクエストについてよく勘違いされることがあります。
それは「自分がしてほしいことを伝えるのはエゴではないか?」ということです。
多くのひとは、自分がしてほしいことを伝えるとエゴと捉えられるから、自分の要求を取り下げてしまいます。
しかし、人間というのは本来、自分のニーズを満たさないと豊かになれない生き物なのです。
リクエストを伝えないということは、すなわち、豊かになれないことに繋がってしまう。
だからこそ、あなたのリクエストが大事で、しかもそれをちゃんと人と共有するということが重要なのです。
そして、相手のニーズやリクエストを理解する姿勢も同じようにとても重要なのです。
一方で、ニーズではなく正しさの構築によって相手を動かそうとすると、それは『リクエスト』ではなく『強要』になります。
リクエストがあったからといって、必ずそれをしないといけないということではありません。
お互いのニーズとリクエストを理解し受け取ったうえで、行動するということが大事なのです。
ちなみに、『リクエスト』か『強要』かを見分けるのは、リクエストを伝えたあと、相手がそれをしなかったときの反応から分かります。
- 引き下がることができたり、他の方法を一緒に考えられる場合は《リクエスト》
- 自罰を与えたり、攻撃的になることで強引にやらせようとする場合は《強要》
後者の強要は、言葉に表れていなくても、無視をするという方法でも当てはまります。
たとえば、前の記事の例で
華子さんが「従来のやり方でやるべき」と伝えたときに、若葉さんが「それは違う」と反発した場合を場面を想像してください。
華子さんが、なぜ若葉さんがその反応をしたのだろうとじっと考えを巡らせたり、ニーズを深く知るために若葉さんに対話の機会を求めたりするのであれば、それはリクエストです。
反対に、もし攻撃的な言葉を伝えたり、無理やりに進めようとするようであればそれは強要になります。
多くの場合『リクエスト』によってではなく『強要』によって、世の中の人間関係は崩れていく。
だからこそ、多くのひとが、互いのニーズに繋がりながらコミュニケーションができるのだ、と知って選択することができれば
そこには確実に今より豊かな人間関係が構築することができると思うのです。
ここまでNVCの4つのステップを簡単に紹介してきました。
『観察』『感情』『ニーズ』『要求(リクエスト)』
自分のニーズに気づき、相手のそれも大切にしながら満たし合おうとすること、そのコミュニケーションを支える骨格としてこの4つのステップが存在しています。
(※もっと詳しくNVCを知りたい方や実践したい方は、参考文献やNVCのホームページなどを見てみてくださいね)
まとめ
今回は、NVCについて解説してきました。
NVCは、人と人との間の繋がりの質を作っていくものでもあり
同時に、思いやりの気持ちから与えたり受け取ったりしあう、人との繋がりの質を生み出そうとするものです。
そして、その繋がりの質は
- 生命のエネルギーであふれていて
- お互いをお互いを大切にしあう気持ちであふれていて
- お互いに協力して人生をよくしようという気持ちで溢れている
心の底から、これができるような関係性を作っていくことを目指しているのがNVCです。
NVCへの理解を深めていくと、本来の人に備わっている「思いやり」から行動すること、そして、その先にある人との繋がりに希望を見出すことができます。
人が本来持っているエネルギーを発揮させ、互いが心から満たしながら自分の人生を歩んでいくとき、
その先にある未来は今見えている未来とは、全くちがう景色が見えるはずです。
※この記事は、森野御土日古のライブ配信やインタビューをもとに、ライターが文章を作成しています。
参考書籍
「NVC 人と人との関係にいのちを吹き込む法」新版
マーシャル・B・ローゼンバーグ (著), 安納 献 (監修), 小川 敏子 (翻訳),2018年02月20日発行:日本経済新聞出版
「わかりあえない」を超える―目の前のつながりから、共に未来をつくるコミュニケーション・NVC
マーシャル・B・ローゼンバーグ (著), 今井麻希子 (翻訳), 鈴木重子 (翻訳), 安納献 (翻訳),2021年12月8日発行:海士の風
関連動画
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<【NVC ノンバイオレントコミュニケーション 2】NVCの骨格>
<【NVC ノンバイオレントコミュニケーション 4】人を思いやる気持ちから遠ざかる原因が道徳?>