※この記事は、森野御土日古のライブ配信やインタビューをもとに、ライターが文章を作成しています。
ティール組織には、新しく生み出された3つのブレイクスルーがあります。
それが「セルフマネジメント」「ホールネス」「存在目的」でしたね。
今回お話しするテーマは、その中の1つ「存在目的(進化する目的)」です。
- ティールという組織モデルは、どのようにして存在目的を見つけていくのか?
- 存在目的を追求していくと、組織にどのような変化が起こるのか?
実際にあるティール組織の例を含めて、お伝えしていきます。
ティール組織の存在目的とは
ティール組織にとっての「存在目的」とは、一体何なのでしょうか。
ティール組織の「存在目的」は、いわゆる一般の企業によくある
ミッションステートメント(行動指針、企業理念など)ではないと思っています。
組織の中にいる一人ひとりが「あ、それだ!」と感じられたり
「なんかそっちに向かっているよね」という感覚を共有し合えるようなもの。
これが、ティール組織の存在目的なのだと思っています。
そして、その都度
- 「なんか、今までこういうことを目的としていたけど…
もうちょっとこういう要素も大切にしたいね」 - 「あれ?今はこの目的に集中したほうがいいかも…?
みんなどう感じているんだろう?」 - 「今までの利益目標…かなり無理する感じあるんだけど…
それよりも、今期は止まって来期の売上向上をより深く狙ったほうがいい気がしていて…」
と、お互いに感じたことを素直に表現する。
コミュニケーションを取って、共有し合い、理解し合おうとすることを大切にする。
そうすることで、組織の存在目的はその都度、より良い方向へと進化していきます。
これが、ティール組織の存在目的(進化する目的)なのです。
心理学の視点で読みとく「ティール組織」
もともとティール組織の「ティール」という言葉は、思想家であり哲学者のケン・ウィルバーが意識の発達段階を色で表した「ティール」という言葉が元になっています。
(ティールは日本語で「鴨の羽色」青緑色を表す)
「ティール」という意識段階ですね。
そのウィルバーを代表とする学者たちが研究して確立した学問に「トランスパーソナル心理学」というものがあるのですが、森野はトランスパーソナル心理学を日本で普及している学会の常任理事でもあります。
今回はこの心理学の視点から、ティール組織を読みといていきたいと思います。
共有すると組織は混乱する?|心理学視点で読みとく「ティール組織」
私は組織というのは、集合的無意識によって繋がり合っていると考えています。
無意識のさらに奥のところで、一人ひとりが繋がっている場所(集合的無意識)があり
そして、そこから湧いてくるインスピレーションがある。
ティール組織では、その感覚やイメージをみんなで共有し合うことで
「私たちを包み込んでいる組織という有機体は、
いま、こっちに向かおうとしているのか?」と知ろうとします。
しかし、一人ひとりが感じたことを共有し合うことで
「個人のエゴや欲望が渦巻いて、組織がバラバラになるんじゃないか。」
「方向性があっちやこっちにいってしまい、組織が混乱してまとまらないんじゃないか。」
このような疑問をもつ人もいるかもしれませんね。
それは
「人は組織の中で仮面をつけて行動し、心の中には抑圧しているエゴ感情があるものだ。」
「結局、心のことを感じて表現しようとしても、抑圧している感情や欲望が出てきて、
それが互いにぶつかり合うだけ。」
そんな前提を持っているからかもしれません。
深く感じとって選んでいく|心理学視点 で読みとく「ティール組織」
しかし、欲望の段階や、感情の段階を超えて、何か深く感じとれる段階が人間にはあります。
ティール組織では、そういう深いレベルのことを、感じとりながら、共有していきます。
それができる空間をつくろうとしているのです。
そして、それを感じとるためには、ホールネス(全体性)が大切だと考えます。
自分の中にある抑圧が多い場合は、心の深い部分を感じようとすると、抑圧している感情ばかり出てきてしまうかもしれません。
それも自分の中の一部であることを認めて、全体的な、抑圧が極めて少ない自分になっていく。
(もちろん、完全に抑圧がないというのは難しいかもしれません)
全体性のある、バランスのとれた自分になれると、欲望や押し込めていたものの奥にある
「なんかこんな感じがするな」という感覚に出会いやすくなると思います。
抑圧が少ないことで、心の深い段階にあるものを感じとりやすくなるのですね。
ティール組織では、その段階で感じているものを共有し合います。
そして、共有し合いながら、一人ひとりが「あそこらへんの、こういう感覚をみんな共有し合っているんだな」ということを理解していきます。
感じとって理解したことを
「ってことは、こういうことですか?」と言うと
「あ、そうそう!そういうことなんだよね^^」という感じになったりして。
みんなで存在目的を感じとって、共有し合う。
そんなコミュニケーションの輪が広がっていきます。
そして、存在目的を感じとった人たちが、それぞれ組織という生命体の一部でありながら独立し、自分の仕事を進めていく。
自分のいる空間の感覚を感じとり
「今なんかこっちを必要としてそうだな」
という選択肢を選んでいく。
ティール組織では、必要なときに、その都度、必要なものを模索していくのです。
存在目的を大切にした選択|心理学視点 で読みとく「ティール組織」
ティール組織では、どのように意思決定していくのか、1つの例をお伝えしますね。
例えば、どこかの会社と契約する仕事を任されている人がいます。
(一般的には、仕事を「任される」と言いますが、ティール組織では「任される」というより「自分で決めた」という感じかもしれません。
もしも誰かから「これやって」と言われたとしても、
それをするかしないかは、自分自身の意思と判断で決めているイメージです。)
その人が、自分たちの組織と契約してくれる会社を探すために、2つの会社から話を聞きました。
「A社とB社、どっちと契約しよう。
なんかこっちのA社は有名だし、なんかすごく良さそうなことを言っている。
だけど、
会社が求めてる目的だと、なんかこっちのB社のほうがしっくりくるんだよな。
なんでだろう。
とりあえず、じっくり話を聞いてみよう。」
…
「あれ、この会社(B社)、僕たちと似た考えをしていて、僕らが求めているものを
何か、もしかしたらくれるかもしれない。
言葉は拙いかもしれないし、一般的なものではないかもしれないけど、
なんかこっち(B社)な気がするんだよね。」
契約の場で、このように考えたとしたら、あなたはどちらの会社と契約するでしょうか。
最初は、ただの直感だったのかもしれません。
そこから、じっくり話を聞くことで、組織にいま必要なのはどちらなのか。
まだ言葉にできない自分の違和感も大切にしながら、深いレベルで共有されている目的も感じ取りながら、そこから深めて、一人ひとりが自分で判断をしていく。
ティール組織では日頃から、根っこにある感覚を、
その変化まで感じとれるレベルで共有しようとします。
感覚が共有されている。
だから、一人ひとりが独自に判断をしていく中で、バラバラになる可能性が、
ひとつ、減っていくわけですね。
進化する目的
ティール組織には、その他にも組織がバラバラになることなく、
一人ひとりが共有している感覚から判断できるような、さまざまな工夫があります。
そのための重要な要素が「進化する目的」です。
ティール組織では、存在目的があり、そしてそれ自体は常に進化すると考えます。
この考えは、ティール組織の軸がずれることなく進んでいくための、
ティール組織全体の重要な要素です。
一般企業では目的が重要視されていない?|存在目的(進化する目的)
まず、一般的な企業で「目的」とは、どのように扱われているのでしょうか。
例えば「株主価値を最大化し、顧客に価値を提供し、従業員満足度を追求します。」という企業理念。
これは、どの会社でも普通はそうであったり、
普通そうしたほうがよいと考える、ありふれた目的と言えるでしょう。
そして、その企業の社員は、目的に対して価値を感じていなかったり、
その目的が重要だとは思っていなかったりするケースも多い。
部下を管理する立場のマネージャーも、企業の目的が重要というよりは、成果を出して会社に評価してもらうことのほうが重要で
目的というものは、部下が何か言ってきたときに「まあでも、こういう目的だからしょうがないんだ」と反論するために使うものくらいの理解しかないかもしれません。
このような、一般的な企業の例では、どのように組織の目的を理解してるのか。
それは、組織というのは成果を出すことが大切だという認識の上で
「目的とかもあったほうが成果が上がるらしい。だから我が社も目的をつくりました。」
「説明のために便利だから、目的を明確にしよう」
という位置づけで目的を認識しているからではないかと思います。
つまりこの例では、目的より利益や成果のほうが大切にされています。
重要視されない目的になってしまっているのです。
ティール組織が大切にするもの|存在目的(進化する目的)
一方、ティール組織ではそれが逆転しています。
自分たちの存在目的が大切だ。
それは、利益や成果よりも大切だ。
だからといって、利益や成果よりも存在目的が大切だから利益なんてどうでもいい、というわけでもありません。
ティール組織では、存在目的を果たすために、利益を求めることも重要だと考えます。
利益を出すこと、収益を得ることは、目的を果たすためのツールになるのですね。
もちろん、ボランティア組織や非営利団体がティール組織を選択すれば、利益を追い求めることを選択肢しないということもあるでしょう。
ただその選択も、存在目的に向かって判断し、選択しているだけなのです。
もし、利益を出す必要を組織全体が感じたならば、よい形で収益性を取り入れる方法を見つけ出すかもしれません。
でも、みんなで共有している目的よりも上位に、利益や成果があるのではありません。
ティール組織では、利益や成果の先に、組織の「存在目的」があるのです。
存在目的を見つけた企業〈FAVI〉
ティール組織の存在目的を見つけた企業の例を1つ、紹介したいと思います。
(※フレデリック・ラルー著『ティール組織』を参考に紹介しています。)
フランスの北部の田舎町にある、FAVI(ファビ)という自動車部品をつくる下請け企業のお話しです。
FAVIではある日、目的を見つけるためにみんなで集まったそうです。
彼らは「組織の存在目的」を見つけられるはずだ、という前提のもと話し合いを始めました。
そうすると、2つの目的が、みんなで話し合う中で見出されました。
1つ目は、「十分な雇用を生み出す」こと。
FAVIがあるのはフランスのアランクールという田舎町です。
そこでは、人々が職に就くチャンスがあまりありません。
そこで、町に十分な雇用を生み出すということが、この会社の目的のひとつだということになりました。
そして、2つ目の目的は「顧客に愛を届けて、愛を受け取る」こと。
「愛」という言葉は、ビジネスの世界では、めったに使われない言葉ですね。
ましてや、工場で使われるような言葉ではないように感じます。
しかし、FAVIの作業員みんなで話し合った結果、愛を届けることがこの会社の目的だと
自動車の部品を通して、僕たちは愛を送っているんだ、という目的を見出したそうです。
工場作業員は、製品をただ顧客に届けるのではなく、自分たちの心を込めた製品を送るのだと。
あるクリスマスの時期のことです。
この工場のある作業員が、余ったブリキを使って、サンタクロースとトナカイの小さな像をつくったそうです。
そして、子供が瓶にメッセージを入れて海に投げ込むように、最終製品の箱の中に、その小さな像を入れたそうです。
いつか誰かが、それを見つけてくれることを夢見て。
そして他の作業員も、その素敵なアイデアを採用しました。
フォルクスワーゲンやボルボなどの工場で、組み立て作業に関わっている人に向けて
ささやかな愛情の印として。
クリスマス以外でも、その小さなブリキの像を入れておくことを始めたそうです。
【まとめ】存在目的はどんな組織にも見つけられる
存在目的は、特別な組織にしか見つけられないものなのでしょうか。
一見、下請けの自動車工場が、どんな「存在目的」を見つけられるのか、想像がつかないかもしれません。
(看護師さんの仕事なら「患者さんの幸せのために」などイメージしやすいかもしれませんね)
しかし、FAVIの例では、
- 「十分な雇用を生み出す」
- 「顧客に愛を届けて、愛を受け取る」
という、2つの存在目的を見出しました。
どんな組織にも存在目的は見出せるという証拠ですね。
さて、次回は「進化する目的とはどういうことなのか」についてです。
目的が進化する、というイメージを持ってもらうために、いろんな話をしていこうと思います。
参考書籍
・フレデリック・ラルー著.「[イラスト解説]ティール組織――新しい働き方のスタイル」中埜博,遠藤政樹 訳,羽生田栄一 監訳,技術評論社,2018年11月26日
・フレデリック・ラルー著.「ティール組織 マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現」鈴木立哉 訳,嘉村賢州 解説,英治出版,2018年1月